平成28年6月4日~5日 晋山結制法要を修行いたしました。

晋山結制

さる6月4日と5日の両日、当寺龍泉寺において、32世大念誠宗和尚の晋山結制法要が修行され、無事成就させていただくことができました。
300人を超える檀家さんや近隣の皆さまのご随喜をいただきましたことは、大変うれしく思われますと同時に、それだけの皆さまに住職として責任があるのだと身の引き締まる思いを、改めて抱いております。
今回、さまざまな事情でお越しいただけなかった方々や檀家さんたちから『都合がつかず残念でありました』とのお声をいただきましたことから、龍泉寺晋山結制法要がどのように行われましたか、その内容をご説明いたしたいと思います。

龍泉寺では、前住職から48年ぶりになる「晋山結制」の法要です。
晋山とは、このお寺に住職として入りますという意味のことばです。「山に晋む」と書きますが、「山」とはお寺のことです。お寺にはそれぞれ「山号」というものがあり、当龍泉寺の山号は「長雲山」です。
晋山式とは、住職となって、この龍泉寺を信仰と修行の道場となすことを宣言するものです。それによって、供養をおこない檀家各家の安寧を祈ります。また、龍泉寺に現前された本尊様、仏法を受け継ぎ伝えてくださった歴代住職、当寺護持の先達への報恩の意味もあります。
晋山結制の儀式は住職・檀家一体となっておこなうものです。
檀家各家のみなさまがたにおきましては、あらためて仏縁と法縁を結んでいただく大きな機会となります。

「結制」

曹洞宗には、夏、冬、それぞれ90日間、禁足などの制約を結んで修行する「安居」という期間があり、「結制」とは、この安居修行に入ることをいいます。

「首座入寺式」

1_首座入寺式その際、修行僧の筆頭、第一座である「首座」というお役、住職の隣に坐りその補佐をしながら修行する和尚さんを任命いたします。その儀式が「首座入寺式」です。初めに維那というお役の和尚様が新命に問訊(合掌低頭)いたします。新命住職の命を請け首座を任命するためです。維那和尚様は「今夏安居、適適堂頭和尚の慈旨を奉じて晃大上座を請して前堂首座に充て令む」と宣します。すると知事と呼ばれる和尚様方が首座の前に行き触礼三拝いたします。これはあなたには首座をお引き受けになる力量がございます、どうぞお引き受けくださいと勧請するお拝です。

「配役・本則行茶」

新_配役行茶首座を任命いたしますと、「行茶」という茶礼がおこなわれ、晋山・結制を円成するための様々なお役を示し「どうぞご随喜ご加担を賜りますように」と、集まっていただきました和尚さま方にお願いをいたします。
また、この翌日に行われる「首座法戦式」の問答の主題である「本則」がこの時に堂頭から明らかにされ、本則の要点・核心について、西堂というお役の和尚さまからお話をいただきます。

「土地堂念誦」

2_土地堂念誦お寺の本堂の東うしろ側に「大権修理菩薩」さまがお祀りされております。伽藍境内をお守りくださる神様であり「土地御伽藍神」としてご加護を念じます。また、龍泉寺には秋葉三尺坊など御縁のある方々を「鎮守さま」としてそれぞれお祀りしておりますので、あわせまして、この結制安居修行が無事に成就することを祈念いたします。この時、両班の知事・頭首の和尚様方は借香問訊、謝香問訊というお拝をいたします。

「開山歴住報恩忌逮夜」

3_開山歴住報恩忌逮夜当寺龍泉寺のご開山であります「梅翁正倫大和尚」さまはじめ、お釈迦さまから続く仏法を絶やすことなく、お寺と檀家を代々お守りしてくださった歴代の和尚さま方に、感謝と報恩のご供養をいたします。御導師様は、北秋田市 耕田寺方丈さまにお願いし、おつとめいただきました。

「稚児行列」

朝一番に、安下処と称される家を出発いたします。これは拝請されてきた新命が旅装を解き、住職としての衣を着する場所であります。32世代では檀家の大村保さんのお宅にお願いいたしました。

ここからお寺までを案内されて行列いたします。地元の感恩講保育園の園児さん方にお稚児さんとなっていただき、行列を華やかに盛り上げて頂きました。このようにしてお寺へと向かいます。この時、山門頭(「山門」とは寺院全体を意味する言葉なので、建築物としての「山門」の傍の意)では、一緒に行列してくださった手鏧、知殿、知事・頭首両班といった和尚様方があらためてお迎えくださいます。

「晋山式」

山門法語 
これより入寺するにあたり、機が熟しまさに門が開き、当寺や縁故・教区の方丈様方・鎮守の神々も自分を迎え入れてくださることに対して、改めて当寺を禅の修行道場となさんという気概を表します。
大擂上殿 
いよいよ新命が「仏殿」へ歩みを進めますと、ご本尊様の御前に参ずるまで、法堂内の太鼓が力強く打ち続けられます。これを「大擂上殿」と称し、これより禅問答や提唱などがあることを意味する鳴らしものです。
辞令宣読 
新命が入大間いたしますと、宗務所長老師より住職辞令の伝達をうけます。これによりご本尊様・檀家の皆様の前で、新命が住職として正式に受け入れられましたことが宣言されました。この際、当寺の護持会役員の佐野長次郎さまから檀家を代表してとお祝いの衣をいただきました。

諸堂巡拝
仏殿法語 ご本尊様と相まみえ、あなたさまに成り代わりまして法を説いてゆきますよという、そのこころの内を表します。この時、新命は「大展三拝」いたしました。

土地堂法語 本堂東側の大権修利菩薩さまの神前にすすみ、大権修利菩薩さまをはじめとする護法の土地護伽藍神に対し、これまでの護法への感謝とこれよりのちも同様に加護してくださるよう願いの言葉を述べます。

祖堂法語 本堂の西側には達磨大師をはじめとする祖師方の祖師堂がございます。祖師方に香を献じその徳をたたえ、当寺に住職たるのこころを表します。 

開山堂法語 当寺を開かれた御開山様へご挨拶と、あなた様が開かれましたこの山門にて法を継ぎ法を伝えてまいりますというこころの内を表します。この時、新命は「大展三拝」いたしました。

新命はいったん退堂して方丈へと案内されます。新たな住職としてのご挨拶と報告は、これにてすべて行われました。

「晋山開堂」

この行持では新命は上堂して問答をします。まずは今日ここに立てることへの感謝のまことを捧げます。また白槌師から自己の力量を証明されることによって、新命住職として仏法をひろめ衆生を教化するための見識を披露いたします。
準備が整いますと開始のお知らせとして「巡版三下」と称し、木版が三度ならされます。続いて「上堂鼓三会」、太鼓が三会ならされます。この間に皆様の前で行われましたことは次のようなことです。
一会目に侍者というお役目の和尚様が須弥壇の点検をおこない両班の和尚様方をお迎えいたします。二会目、三会目で、頭首位の和尚様方、知事位の和尚様方がそれぞれ誰もいない須弥壇に向かって合掌して低頭なさいますが、これを「空座問訊」といい、新命住職の説法を心待ちにしておりますよという気持ちをあらわすものです。空座問訊が終わりますと、侍者の和尚様は住職を迎えに方丈の間へ向かいます。こうして大擂にて新命住職が上殿してまいります。

下語(あぎょ)新命が須弥壇下に到着すると、これより説法の座としていっとき須弥壇に上りますよ(上堂)とお唱えいたします。これを下語といいます。新命は登壇してお香をたきます。この時新命は四回お香をたきました。

一仏両祖祝祷香 お釈迦様、仏法を伝え広めてくださった両祖、祖師方に感謝のお香をたき、「国土安穏 万邦和楽 群生康寧 至徳千祥」を祈念いたします。

開山歴住報恩香 当寺御開山さまはじめ当寺歴住諸大和尚様方に感謝のお香をたきます。

檀越香 開山以来当寺を護持し支えてこられた、開基・壇越の今に至るまでの累代への供養とこれからの「家門繁栄 災障消除 諸縁吉祥」なることを祈念してお香をたきます。

継承香 新命の本師の恩に酬いるために香をたきます。これをたくのは、本来一生に一度きりです。この時の新命に入手しえた中で、香りも由来も最もよいと思われるものをたいて感謝の香といたしました。

こうして新命が感謝と祈念の香をたきおわりますと、再び、五侍者の問訊、頭首・知事の問訊、そして侍者和尚様とともに大衆がみな新命に向かって問訊致します(代衆請法)。自分より年長の方丈様方もふくめた大衆の全員が、さぁあなたの力量をみせてください、あなたの見識を示してくださいと一斉に合掌低頭なさる姿は恐ろしくも有難いものです。

白槌 白槌師は西堂のお役をお引き受けくださいました御本寺の満福寺大方丈様にお願いいたしました。打槌一下して「法筵龍象衆 当観第一義(この法の集まりにこられた龍や象のように優れた方々、まさに仏法の第一義をつかんでください)」と励声にお唱えくださいました。
白槌師がお唱えおわると、新命は垂語を唱え、さぁ法問に来たれと促します。いよいよ問答がはじまります。首座、弁事から順に、一緒に修行した同安居や石巻、仙台から随喜してくださった同郷、縁故の和尚様方が次々と問答を仕掛けてくださること、まことにありがたい限りです。
晋山式を修行し問答を経て、自己の見識を明らかにするのみならず、住職としていかに務めるのかをこうして多くのご寺院様方、檀信徒の前で披露したことで、まだまだ修行の未熟なることをはっきりと自覚した次第です。
この自覚こそが今後の修行・教化のあらたなる一歩を作り上げていくのだとすれば、やはり一人の僧侶として和尚から大和尚への大きな足掛かりを得たといえる、大きな一歩だといえるのではないかと思います。
さて、新命は問答ののち、提綱、自序、謝語、拈則と四つの言葉を唱えます。
提綱とは宗旨について述べたものであり、新命は『正法眼蔵』の『行持』の上巻より言葉をかりてお唱えいたしました。
自序では非才でありながらも法を説いたと自ら恥じる気持ちを表しました。
謝語とは白槌師様や両本山御専使様はじめ、諸山の尊宿、法類や教区のご寺院の皆々様等に、随喜加担への感謝を述べる言葉です。
拈則とは、最後に古則を拈提する言葉です。衆慈久立珍重(長いこと立っていらしてお疲れ様でした)または衆慈坐久成労(長いこと坐っていらしてお疲れ様でした)と結座をお唱えしておわります。

白槌 ここで白槌師が「諦観法王法 法王法如是(真理であるお釈迦様の法をよくつかんでください。お釈迦様の法はこのようなものであります)」とお唱えしてこの問答を証明してくださいます。まさに文殊菩薩のお役目であります。

さて問答おわり、新命は白槌師さま、本山両御専使さま、宗務所長さまはじめ随喜のみなさまに感謝の気持ちを込めて、拄杖をぐるり一回転させました。すりこぎを回すようなのでそのまますりこぎ問訊と称します。これにて晋山開堂の行持は終了です。

「法戦式」

首座とは修行僧の筆頭の意味であり、住職の隣にあって補佐の任をつとめながら修行することから、そう称されます。
そのかみ、霊鷲山においてお釈迦様が説法をなされている時に、その座を半分大迦葉尊者に分かたれました。人天に説法するにふさわしい人物であると認められたのです。この故事(『雑阿含経』巻十一)をふまえ、さらに『正法眼蔵』仏性の巻に「入室瀉瓶の衆たとひおほしといへども、提婆と斉肩ならざるべし。提婆は半座の尊なり、衆会の導師なり、全座の分座なり。正法眼蔵無上大法を正伝せること、霊山に摩訶迦葉尊者の座元なりしがごとし」とありますように、まさに半座を分かち、説法をまかせるぞという大問答がおこなわれるのです。

法要の準備が整いますと木版が打ち鳴らされ、続いて堂内の鐘が鳴らされます。
上方丈 鐘が三会目になりますと、一度は大間内にお揃いになりました頭首・知事両班の和尚様方が一斉に法堂を出ていかれます。これを「上方丈」といい、新命住職を拝請し、お迎えにあがるのです。
大擂上殿力強く太鼓が打ち鳴らされる中、両班の和尚様方・住職が入堂いたします。これより大問答がはじまりますよと知らせる鳴らしもので、大擂と称します。
緋衣許状・掟宣読 晋山結制の場合、資格相当の衣を身に着けることが多いようです。まさにその資格を得たということで緋色の衣を被着する許状をいただきます。また、宗務所長老師より、この結制が法に適ったものであるよう努めるよう、修行の心得・戒めを説いた掟を宣読いただきます。
上香献湯菓茶 これより法戦式を修行するにあたり、ご本尊様に湯菓茶をお供えいたし、三拝いたします(普同三拝)。
挙心経 結制の修行でありますので般若心経が読誦されます。新命住職は晋山式そして結制修行を行うことで、また首座は結制における法戦式を経ることで曹洞宗宗制の定める資格を得るのです。得られる資格にふさわしいだけの力量と見識をしめすこの法戦式にあたり、ご本尊様もご照覧あれと、空のことわりを明らかにした般若心経をおあげします。心経の了りと同時に首座は「挙す」と大音声にて一喝して本則を唱えます(挙則)。
請勘辯拝 首座が本則を唱え了ると、開口(弁事)が朗声にて頌を読み上げます。この間に首座は本則を捧げ持ち新命住職へ返します。新命住職、大衆、東西の尊宿、本師にお拝をします。どうか問答修行を見極め力量を点検してくださいますようにというお拝です。
拈竹箆 お拝がおわりますと、首座は新命住職の右横にたち竹箆をうけます。この竹箆を受け取ってどうするのかと問われればそれぞれに応じてなんとでもと答え受け取ります。そして大衆に問答商量を促す拈竹箆の語を唱え法問が始まります。
法問 開口(弁事)から順に大衆が次々に問答をしかけ、首座がひとつひとつ説破してゆきます。
謝語 法問が了り、首座は感謝の言葉を述べます。自ら謙譲し「命とはいえ、わたくしのようなものが首座の位につきお聞き苦しい答えをお聞かせいたしました。どうぞ清らかな水で耳を清めてくださいませ」と拝謝いたします。
首座謝拝 首座は竹箆を新命住職に返します。この時新命住職は「也太奇。也太奇」と声をかけました。大凡そ、よくやった、素晴らしかったという意味です。このあと請勘辯拝でお拝をした新命住職、大衆、東西の尊宿、本師に感謝のお拝をいたします。
祝語 首座が位にもどりますと、維那和尚さまが「乞処作麼生」と挙する声につづいて知事、頭首、尊宿、本師、新命住職から祝いの言葉をいただきます。こうして法戦の修行がおわり普回向を挙しご本尊さまに三拝いたします(普同三拝)。
祝拝 法戦式の修行も無事におわりました。維那和尚さまの「祝拝これにて」と挙する声にあわせてお拝をし、おめでとうございますとお祝いを述べます。
祝辞・祝電披露 
このあと、永平寺・總持寺両本山の御専使さまより祝辞をいただき、また永平寺・總持寺両本山よりの祝電の披露がございました。永平寺御専使は横手市大雄、重福寺の國安格典大方丈さま、總持寺御専使は横手市十文字町、永泉寺の寿松木光雄大方丈さまにそれぞれお引き受けいただきました。

これにて晋山結制法要は終了いたしました。
ご指導いただきましたご寺院様、ご随喜いただきましたご寺院様はじめ檀家の皆様方、無事行持をつとめあげることができましたことに深く感謝申し上げます。

※なお、晋山結制の法要解説をすることもあり、自分自身に資するためやや檀家さん向けでない内容があります。滴禅会による『龍華』、愛三青年会の『改訂新修叢林下巻』、燈明社刊『曹洞宗実践叢書第5巻』、鴻盟社刊『禅門宝鑑』などに依拠するところが多いのですが、あるいは誤解もあろうことと思います。碩学のご指摘をいただければ幸いです。